【俊祐】立てこもり事件の件【SS】

2/7公式ツイートの立てこもり事件について正解を探した結果。
祐俊のつもりが俊祐俊って感じになりました。
※エロ注意


今日は放課後何もなく、あまりに暇だった。
帰宅部であるということを少し後悔し、このまま味気なく一日が終わるのをもったいなく思っていた。
さっさと自宅に帰ってきてしまい、何をしようか途方に暮れていた夕方4時頃。マンションの下でばったり俊介の母と出会った。
「あら祐くん、もう学校終わったの?」
「あ、俊介のかーちゃん。うん、今日は6限だから」
「俊介はクラブよね」
「そうそう…って、どっか出かけんの?」
「晩ご飯の買い出しにね。祐くんは相変わらず料理してるの?」
「うん…そういえば今日の晩ご飯考えてなかった」

暇なら一緒に買い物行く?
用事ができたと目を輝かせ、急いで着替えて俊介の母に連れられてスーパーに向かった。

「本当に祐くんは偉いわね、男の子なのに」
「最近は由梨が作ってくれることもあるけどね、たまーに」
「由梨ちゃん相変わらず反抗期?」
「うん、相変わらず…」
親子ではない2人が一緒に夕食の買い出しをしているのは、一見不思議な構図である。
母は母で、このかわいい幼馴染を気に入っていた。
祐も祐で長年の付き合いである親友(実は恋人だけど)の母に何の気兼ねをするでもなかったので、2人の会話はまるで友人同士のそれだった。
もちろん話題の中心は、2人を結ぶ息子であり幼馴染である、俊介の話。

「何作ろうかしらね」
「こないだ生姜焼き作ったら、俊介喜んでた」
「そうそう!祐くんが作る生姜焼きが美味しいって聞いたわ。ちょっと作り方教えて欲しいわ」
「いやいや、俺のなんて子どもの料理だし、絶対かーちゃんが作ったのがおいしいって。『俺が作ったにしては美味しい』って意味だと思うよ」
「謙遜しなくていいのよ。今日は祐くんの生姜焼きで決まりね♪」

母とキッチンに並び、野菜を洗いながら会話する。
実の母親なら照れくさいが、恋人の母だ。勝手に面影を映してしまうし、なんだか心が浮き浮きする。
「皮むき上手ね〜、ほんと、いいお婿さんになるわ」
「ありがとーございます☆俊介のお婿さんに来ちゃおっかな?」
「ほんとよね。あの子まだ彼女いないんでしょ?」
「まあ、サッカーに集中したいって言ってるし…しばらく作らないんじゃないかな」

こういう会話になると、途端に気分が沈むのだ。

(彼女はいないけど、彼氏がいますよーここに)

この綺麗な母に望まれてるのは、よく似た端正な顔立ちの息子の、隣に並んでも遜色ない、かわいいカノジョなのだ。かわいいカレシは望まれていない。絶対に。残念ながら。
「祐くんが彼女作ったの見て焦ってくれると思ったのに。やっぱりマイペースなのね、あの子」
マイペースもマイペース。めちゃくちゃマイペースだろう。

「まあ、綺麗な母ちゃんと俺がいれば、十分なんじゃね?」
なんて、まだおどける気力はある。
「ありがと。お世辞上手ね」
お世辞じゃないって〜、なんて、なんで俺は恋人の母親をナンパしてるんだろう。
でもこうやって、誤魔化すしかないのだ。

できた生姜焼きを持ち帰り、由梨と食卓を囲んだ。
相変わらず可愛くない態度だが、俊介の母が作ったと伝えると目を輝かせて
「おいしそう!!」だって。
でも一口食べて
「これほんとに俊介くんのお母さんが作った?」
お兄ちゃんの味付けじゃん…なんて、バレてしまった。
味の違いが分かるほど、こいつは俺の料理を食べて育ったんだなあ。そう思うと幸せな気持ちがとくとくと胸に広がった。
ふと、
(俊介は気付くだろうか)
食卓での俊介の様子が見たくなり、再び俊介宅を訪れることにした。

「あれ、俊介まだ帰ってないの?」
「あら、祐くんお帰りなさい。寄り道して9時過ぎになるみたい。さっき連絡が来て…よかったら上がって待つ?」
「んー。暇だから、俊介の部屋で待とうかな」
「どうぞ。ジュース持って行くわね」

時刻はまだ8時。あと1時間ぼーっとしているのか。
今日はなんだかんだ、いろいろとある一日で良かった。
しかし少し疲れた。おもむろにベッドに横たわる。倒れたすぐ隣に、俊介お気に入りの大きなキティさんの抱き枕。
「…キティちゃーん」
ふらっと、いつも俊介がするように、キティに抱きついてみる
抱き心地は良く、どうやら毎日のように抱きしめられているらしいそれは生地がくたびれ、俊介の香りが染み込んでいた。
「…」
本能的に好きな香りなのか。好きな相手の香りだから好きなのか。祐は無意識にキティを抱きしめ、その香りを貪りながら恋人の顔を思い浮かべた。
(俊介…早く帰ってきて)
顔が見たい。安心させてほしい。

自分を誤魔化したつもりでも、繰り返し頭にちらつくのは、先ほどの母との会話。
俊介の彼女が見たい、と願う母の言葉。俺じゃだめ。当たり前当然。
(でも好きなんだ)
いつまでバレずにいられるだろう。いつまで黙っていられるだろう。そんなことはわからないし考えたくもなかった。
(俊介に、バカだろって言われたい)
(ていうか、俊介とギュッてしたい)
キティを抱く腕に力がこもる
(俊介…しゅんすけ)
恋人の甘い匂いに当てられたのか、いつの間にか無意識に、抱き枕に恋人の身体を重ね、求めるように掻き抱いていた。
「やば」
気づけば下半身は大きく反り勃ち、収めようがないほど興奮している。
時計を見るとまだ8時15分。俊介が帰るにはまだ早い。しかしもし万が一早く帰ってきて、こんな光景を見たら機嫌を悪くされるだろう。
だけど、欲しくてたまらない…
下半身に手を伸ばし、軽く擦り上げるだけで快感が走る。当然だ。更に恋人の甘い香りを全身で吸い込んでいるのだから、最早止まれるはずがなかった。
「…すけ、しゅんっ…すけ…」
抱き枕に顔を埋め全身を擦り付けながら、右手で下半身を擦り上げる。本人不在の部屋で致している背徳感も相まって、興奮が加速してゆく。
「俊介…好き…っ」
身も心も快感に委ね、自らの手の摩擦を早め一気に擦り上げると、あっという間に達してしまった。

気づいた時は時すでに遅し。
「やばっ!」
夢中で全身を擦り付けたキティさんは、無残にも先ほどの吐精を全て受け止め、汗を含む祐の体液で斑らに汚されていた。
奇しくもこのタイミングで階段を上る音がする。
(俊介だ)
乾かしている暇はない。
パニックに陥った祐がとった咄嗟の行動は…

「あれ?開かねえ」

自室のドアノブを回そうとしたが、内側から鍵がかけられているようで開かない。
母から、祐がいることは聞かされている。
つまらないいたずらだろう。

「おい、祐あけろ」

ドアを叩いて抗議するが、反応がない。
「祐、寝てんのか?おい、開けろって」
すると中からか細い声が聞こえてくる
「怒るから開けたくない」
「は?」
オレが怒ること。部屋のものを壊したとか、そういうことか?
今はとにかく疲れ切って、一旦荷物を部屋に置きたかった。
「怒らねえから、開けろって」
「約束する?何があっても怒らない?」
「約束する」
わかっていた。こんな約束は守られるはずがない。
だけど素直に謝りたい気持ちと、時間を引き伸ばせば俊介の怒りも比例して増幅するのがわかっていたから…

カチャ、とドアが開いた
「何しやがった」
「ほらもう怒ってる!」
「いーから白状…おい、これ」
ベッドの上にあるはずのキティさん枕が床に置かれ、ティッシュで拭き取られた形跡がある。斑ら模様の染みは遠目にもよく見える。
「ごめん俊介!俺がキティちゃんを汚しました!」
「…汚すって、なんか零したのかよ」
バツが悪そうに祐が視線を泳がせた。
ジュースを零すとかそういうことなら、ここまで怯えないだろう。
「お前まさか」
年中発情期のこいつなら、今自分が想像した最悪の行為をしかねなかった。すぐさま否定しないから、その通りだと分かった。
「サイッテーだなお前!どうすんだよこの…キティさんに謝れ!オレとキティさんに謝れよ」
「ごめんなさい、ほんとにごめんなさい、俺が悪いです…」
「絶対許さねえ」
「俺、ちゃんと綺麗に洗って返すから…ごめん…」
こんなつもりではなかった。
本当なら、俊介が生姜焼きを食べて喜ぶ顔を見て帰るだけのつもりだった。それが、夕刻、俊介の母とあんな会話をしたせいで。
迂闊に抱き枕の香りに顔を埋めたせいで。
いや、まあ、全部俺が悪い。
だけど寂しい気持ちになったのも事実で、本当なら俊介に甘えて一日を終わらせたかったのに。
全部自業自得。

大きなキティ枕を抱えて、俊介宅を後にした。
「それ、どうしたの?」
「俺が汚しちゃったから、洗って返します。帰りまーす…」
トボトボと帰る祐の後ろ姿。
(また喧嘩したのね)
長年2人を見ている母は小さくため息をつく。
どうせ数日で元どおりになることは分かっていたが、夕刻、食事の支度に付き合ってもらったからか、放っておけず口の重い息子に話しかけた。

「俊介、祐くんに何したの」
食卓についた息子に問いかける。
「…いつものケンカ。あいつが悪い。」
「でも祐くん、いつもより元気がなかったみたい」
母の問いには答えず食事を進める。生姜焼きを一枚食べて、ふと手を止める
「…これ」
「あら、やっぱり分かる?由梨ちゃんも分かったんだって。」
「なんであいつが作ってんの」
「今日は夕食の支度を一緒にしたのよ。たまたま下で会って、暇そうにしてたから。」
料理上手よね祐くん。あんなに愛想良くて器用だったら、それはモテるわよね…なんて勝手に話しだす。
「あんたの彼女のことも聞いちゃったけど、『俊介は今はサッカー一筋だから、見守ってやって』って。男前なところもあるじゃない?」

そんなこと言ったの、あいつ。

「…ふざけて、俺が彼女になろっかー?とか言うかと思った」
「ああ、お婿さんに来てくれるって言ってたわ。まあ、あんなにできた女の子がいたら、大歓迎なんだけどねー」
そこまで言って食器を洗いに炊事場へ立った母を横目に、母とそんな会話をした祐の心中を察する。
以前もこんなことがあったのだ。母さんと祐がオレの彼女について話していた時(本人を前に、はた迷惑だったけど)。
声のトーンが低くなり、心なしか笑顔がひきつる。様子がおかしいと思っていたら、その後二人きりになった途端、胸元で泣きじゃくられたのだ。
(別れた方がいっかな)
オレのことと、オレのことを心配する母さんのこと、それを思えば自分がオレと付き合っているのは誰にとっても良くないと言うのだ。

なるほど、今日のキティさん事件も、それが理由の一つではあるのだろう。

まあ許さないけど。

風呂を済ませ、寝支度を整え、あとは寝るだけ。
なのに何故か、いつもならどうだっていい、祐のことが気がかりだった。
キティさん枕がない、寝心地の悪さのせいかもしれない。

「祐?」

自室から、祐に電話をかけてみた。

「なに?泣いてんの?」

案の定、家に帰って一人になって、泣いていたらしい。鼻をすする音が生々しい。
「キティさん洗ったか?」
『洗ってないー…まだ』
「は?早く洗わないと染み付くだろ」
『ごめん…今癒されてたとこ』
「お前、また同じような…」
『してない!今から洗うよ。じゃあ…』

洗いに行くからと電話を切ろうとした時だった
「今から行くから、玄関開けろよ」
『え?』

ピッと通話を切り、風呂上がりの寝間着姿に上着をしっかり羽織って祐の家に向かった。

インターホンを鳴らす前に祐が出てくる。
「俊介…」
目の周りが真っ赤に腫れている。泣きすぎだろう。
「ちょっとだけ上がって帰る」
夜分遅くの訪問だ。こっそりと、足音を忍ばせて祐の部屋に向かった。
「キティさん、今洗濯してる。綺麗になるから…ごめんね」
「それは許さねえ」
「う…」
「それとこれは別」
祐を胸元に抱き寄せる。
予想外のことに、祐が睫毛を瞬かせる
「気にすんなって言ったろ」
「え、何が?」
「母さんと、またくだらねえこと話したろ」

俊介が、あの鈍感な俊介が、今自分の心を塞いでいるものを的確に当てる。
これは、とんでもなくすごいことだ。

「気にすんな」
そう囁いて、祐を抱く腕に力を込め、ちゅ、と音を立てておでこにキスをする。
すぐに体温は離れ、部屋を出て行こうとする。
「俊介、ちょ、今の…」
いろいろと頭が追いつかず、引き止める言葉が出てこない。
「おやすみ。あと生姜焼きうまかった。そんだけ」

引き止めることはできなかったし、返したい言葉は何一つ言えなかった。
ただ信じられないほど幸せだった。
気にしなくていい、本人の太鼓判つきで、俊介を好きでいていいのだ。
おでこにチューまで…

おでこをさすり、ポツリと漏らす。

「むり、またキティさん汚すって」

喧嘩の原因もすっかり忘れて、幸せな眠れぬ夜を過ごした祐だった。